シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 オーベルジュのレストランには、半個室になっている場所がある。
 美しくライトアップされた夜の庭園が見渡せるそこは、富裕層の中でも特に特別なお客様をお迎えするときにしか使わない。

 斜めに置かれた、四角いテーブル。
 庭を見渡せるようにL字に配置された、二組の椅子。

 そこに座っているのは、シルバーグレーのスーツ姿の高い背と上品なホワイトのワンピース姿の華奢な背。

 時折、顔を向かい合わせて上品に微笑み合う二人を、私はとてもお似合いだと思った。

 ワゴンを押す手が、震え始める。
 ドクリドクリと心臓が厭な音を立て、同時にチクチクと痛みだす。

 大丈夫。
 慧悟さんと彩寧さんが結ばれることは、始めから分かっていたんだから。

 今の私に出来ることは、二人に最高のデセールを楽しんでもらうことだけだ。
 小さく深呼吸をして、二人の後ろにワゴンを停めた。

 夜の窓が鏡みたいに、二人の顔を映している。
 見た目にもとてもお似合いな二人の後ろで、コックコートの私は、運んできたワゴンの上のクローシュを開けている。

 住む次元が違う。

 そう思うのに、窓越しに慧悟さんと目が合ってしまい、慌ててワゴンに視線をうつした。

「失礼いたします。デセールをお持ちいたしました」

 大切なお客様なのに、二人の顔を見ることができない。
 なんて最低なシェフだろうと思う。

「……希幸?」

 私の名を呼んだのは、あの頃よりも少し低くて、柔らかく優しい声。

 覚えていてくれた嬉しさと安堵と同時に、顔を上げなければならないという苦しさがやってくる。

 おもむろに顔を上げた。
 笑顔をそこに、貼り付けて。

「ご結納、おめでとうございます。慧悟さん、彩寧さん」
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