シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 応接室に入る。
 そこには、もう既に奥様が座っていた。
 高価な着物を召された彼女は、正面の高価なソファに優雅に腰をかけている。

 向かいに置かれたソファはやたら低い。

「話があるっていうから時間をとったの。さっさとしてちょうだい」

 入り口に立ちすくむ私に、奥様の視線が刺さる。
 私は慌てて奥様の前のソファに駆け寄り、腰を下ろした。

「それで?」

 私は奥様が言い終わる前に、勢いよく頭を下げた。

「大変申し訳ございませんでした」

 その時、がちゃりと扉が開く音がする。
 扉の前に止まった足元を見て、母だと確信した。

 私は頭を下げたまま、自分が慧悟さんに恋心を抱いていること、奥様に言われていたにも関わらず自らの快楽を優先し一夜の過ちを犯してしまったこと、そして彼の子供を身ごもっていることを告げた。

「希幸……」

 全てを話し終えた沈黙の応接間に、母のぽつりとつぶやいた私の名がこだまのように響く。
 けれどそれは一瞬で、母は慌てて私の隣にやってくる。

「うちの娘が、とんでもないことを! 大変申し訳ございません!」

 母はその場で勢いよく、奥様に向かって頭を下げた。
 お母さんは、何も悪くないのに。

 大きなため息が、頭上から聞こえた。
 けれど、私は顔を上げることができない。

「前埜家には、失望しました」

 奥様の静かな声が、応接間に響いた。
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