シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「世間体を誰も気にしなかったら。もしも慧悟さんが、幾美財閥の嫡男じゃなかったら。普通の家に生まれた、普通の男性だったら。それでも、希幸は後悔する?」

「そんなはずない!」

 いつの間にか涙が溢れて、視界がグシャグシャになる。
 荒げてしまった声に、自分ではっとした。

 私が後悔しているのは、慧悟さんが幾美家の嫡男だからだったんだ。
 
「だったら、自分の心に嘘をついて、謝ってばかりいるのはやめなさい。胸を張っていいの。大好きな人の子を、お腹に宿せたこと。お母さんは、それだけで幸せだった。叶わない恋でも、あなたを産んで幸せだったのよ。あなたが今こうして、目の前にいてくれて幸せなのよ」

 母の目が細められる。
 まるで愛おしいものを見つめるみたいに。

 私がいるだけで、幸せ。

 私も思うのだろうか。
 慧悟さんとの愛しい子供が産まれたら、目の前にいてくれたら、それだけで幸せだと――。

 本当は慧悟さんの隣で、共に過ごしたい。
 慧悟さんにも、我が子を抱いてほしい。
 家族で、笑い合いたい。

 それが叶わなくても、愛しい人との子供がいる幸せ。
 お腹にこの子がやってきた幸せ。

 それに、胸を張っていいんだ。
 私の気持ちに、嘘をつかなくていいんだ。

 そう思ったら、お腹の中にある小さな命が、突然かけがえのない大切で愛しいものに思えてくる。
 素直な気持ちのまま、この子に愛を伝えたい。
 大好きな人との子供なのだと、胸を張って育てたい。
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