シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「ねぇ、お母さん」

 涙を袖口で拭きながら言うと、母は「ん?」と優しく訊き返してくる。

「お母さんは今でも、その相手のこと、好き?」

「ええ、好きよ」

 笑顔で即答する母に、胸がいっぱいになった。

「大好きだった。今でも大好き。だから、あなたを産んだことを後悔してない。結ばれるだけが、幸せじゃないんだから」

 初めて見る、母のうっとりとした顔。
 それを見れば、たとえ結ばれなくとも幸せになる道はあるのだと、はっきりと分かる。

「お父さんのことは彼に口止めされてるから言えないけれど……、でも、とても素敵な、素晴らしい人なの。結局彼は今も独身で――私は、それだけで幸せなのよ」

 母も女だ。
 辛いことも、悲しいこともきっとたくさんあったんだろう。
 それでも母は、恋が叶わなくても最良な幸せに生きる生き方を選んで生きてきた。

 そんな母を、逞しいと思う。
 そんな母のように、生きられたらと思う。

 拭ったはずの涙は全く止まらない。
 むしろ次から次へと溢れてきて、私の両腿をたくさん濡らす。

「希幸も、慧悟さんのこと――」

「好き。大好き。他の何にも、変えられないくらい大好きだよ」

 言いながら、抑えられなくなり声を上げて泣いた。
 大人げないくらいに大泣きして、でもそれが慧悟さんへの気持ちなのだと思えば涙さえも愛おしい。

「後悔なんかしたくなかった。結ばれたかった。婚約者がいれば気持ちが無くなるって思ったけど、そんなことなかった。好きになっちゃいけない相手だって思っても、好きだった。大好きなの」

 拭っても拭っても涙は止まらない。
 溢れる思いも止まらない。
 抑え込んでいた感情が、火山が爆発したみたいに、溢れ続けてくる。

 そのくらい、私は慧悟さんが好きだ。
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