シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 その王子様のような微笑みを、ずっと私に向けていて欲しい。

 そう思ってしまうけれど、そんなことはもちろん叶わない。

「素敵なデセールね」

 ワゴンの上に視線を落とした彩寧さんがそう言って、私の使命はこの二人に最高のデセールを提供することだったと思い出す。

「この春より、『Auberge Le Belvédère(オーベルジュ・レ・ベルべデール)』にてデセール部門のシェフを任されております。本日は今までの御礼を兼ね、私自身でサーブがしたいと思い、こちらにお持ちした次第です」

 言いながら、二人の前にデセールの皿をサーブしてゆく。

「本日はメインがムニエルでしたので、デセールはさっぱりとした口当たりの、春のフルーツを使用したタルトをお持ちしました」

「華やかだね。このマカロンの色も相まって」

 慧悟さんがそう言って、私の胸が再び跳ねた。

「お二人のご結納を私なりに祝福したいと思い、華やかな雰囲気のプレートに致しました。マカロン・パリジャンもそれぞれ二人をイメージして――」

「じゃあ、僕が黄色だ」

 慧悟さんが言い当てたので、私はこくりと頷いた。

「左様にございます。それから――」

 ワゴンの二段目に手を伸ばす。

 盛り付けられたフルーツタルトの横に添えたガラス製の器に、淡いピンク色のソルベを添えた。
 そこにシャンパンを注いでいく。

「まあ、薔薇の花みたい……!」

 つぼみのように盛られたソルベの中に仕込んだのは、飴細工の優しい黄色の花。
 シャンパンの水分で蕾が開き、咲いていく。

「二人の未来に花が咲いて欲しい、そんな思いをこちらのデセールに込めました。どうぞお楽しみください」

 言いながら、デセールの乗ったプレートをにこやかに見つめる二人を眺めた。
 美男美女。お似合い。おまけに幾美財閥のご子息と、城殿財閥のご令嬢。

 私の心は、しゅわしゅわと萎んでいくようだった。
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