シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 ダイニングに戻ると、母はどこで手に入れたのか求人情報誌を捲っていた。

「お母さん、働くの?」

 聞いてから、しごく当然のことを聞いてしまったと気付いた。母は、今日まで幾美家で働いていたのだ。

「そりゃあね。まだまだ元気だもの」

 母は言いながら、なおも目線を求人雑誌に向ける。
 指で辿る先には、いろいろな仕事が載っている。

「ねえ、レジ打ちとか楽しそうじゃない?」

「え?」

 顔を上げると、母はふふふと笑う。
 きっともう、前を向いているんだ。

 だったら、私も。

「私は、何かを作る仕事がいいなぁ」

「いいじゃない!」

 二人で頭を突き合わせ、求人情報誌を覗いた。
 頑張ろう。頑張らなきゃ。

 お腹の子に恥じぬ、ちゃんとした母親になりたい。
 今目の前にいる、母のような。
< 121 / 179 >

この作品をシェア

pagetop