シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 仕事に追われる毎日は、あっという間に過ぎてゆく。
 気付けば梅雨を通り越し、日差しの強い時期が続いている。

 むんむんとした気候の中では、日傘を差していても暑い。
 頬を汗が垂れていくのは、お腹にいる子が元気な証拠でもある。
 基礎体温が上がっているのだと、前回の妊婦健診の時に医師に言われた。

 汗の一つも、この子のおかげだと思うと愛しくなる。
 そう思えるくらいには、私は前を向いていた。

 いつか、この子が大きくなったら、この子のお父さんの話をしてあげようと思う。
 あなたのお父さんは、とても格好良くて、大好きな人なのよって。 

 今日は仕事は休みだ。
 蝉の鳴きやまぬ街路樹の通りの先、スーパーの向かいに産婦人科がある。
 街中の小さな病院。
 たまたま見つけただけなのだが、入院中の料理がとても美味しいと職場の先輩たちに聞いた。

「もうちょっとで着くからね〜」

 お腹の子も暑いだろうと、撫でながら声をかける。
 優しい気持ちになれるのは、この子を心から愛しいと思うから。

 大好きな、慧悟さんとの子供だ。
 だから、私はそれだけで――。

 優しい気持ちのまま、街路樹の道を通り過ぎる。
 産婦人科のある角を曲がって、思わず足を止めた。

 病院の入口のガラス戸の前。
 思いもよらぬ人物が、そこに立っていた。

「慧悟さん……?」
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