シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「黙って僕の隣からいなくなったのは、僕の為でしょ? でも、そのお腹の子は僕の子でもあるんだ。希幸だけに、全て背負わせようだなんて思っていない。思っていないから、産んでほしいと僕は言ったんだよ」

 慧悟さんの腕の中は、温かくて居心地がいい。
 けれど、ここに浸かっていてはいけないと、私は一番良く知っている。

 私は、慧悟さんといることも夢も諦めたあの日、生半可な気持ちで全てを捨てたわけじゃない。

 唇を噛み、甘えたい気持ちをぐっとこらえる。
 しゃがみ、慧悟さんの腕の中から脱出した。

「すみません、検診の時間なので」

 私は早足に産院へと足を向ける。
 袖口で涙を隠しながら。

 それなのに。

「希幸に、僕の覚悟は伝わらないの?」

 慧悟さんの声に、足を止めてしまった。

「僕は全てを捨てても、希幸の隣りにいたい。でもそれを、希幸が望まないことだって分かってる。だから、全てに決着をつけたいって、そう思って奔走してた」

 慧悟さんの思いなんて、聞きたくない。
 決心がブレてしまいそうになるから。

 そう思って、歩き出そうとした。
 けれど、慧悟さんが口早に告げる想いが、私をその場に縛り付ける。

「ホテルで希幸と暮らしていたのは、希幸がそばにいれば目標を見失わずに動けるって思ってたから。なのに希幸は、僕の前から突然いなくなって――僕のことをそんなに、信じられない?」

「私は――」

 奥様に言われたことが脳裏にこびりついていたせいで、私は大切なことを見失っていたらしい。
 慧悟さんのことを、信じていなかったわけじゃない。
 けれど、そんなに私を大切に思ってくれる彼の気持ちを、無下にしていたのだ。
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