シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「ごめんなさい……」

 私にとって、幾美家は大切だ。
 だけれど、そればかりを考えて、大好きな慧悟さんのことを大切にできていなかった。

 結局、自分のことしか考えていなかったのだ。
 彼は、私を必死に守ろうとしてくれていたのに。

「ごめんなさい、慧悟さん……」

 慧悟さんの靴が見える。
 また、ふわりと優しいぬくもりに包まれた。

「もう、僕の前から勝手にいなくならないで。僕を信じてよ。希幸もお腹の子も、希幸も、僕が守るから」

 こくりと、頷く。

「検診、僕もついていく。いいよね?」

 私はもう一度、こくりと頷いた。

 *

 待合室中の視線を浴びながら、慧悟さんは受付まで私をエスコートする。
 それから、産院のソファ、私の隣にそっと腰掛けた。

 柔らかなオルゴールの曲が流れている。どこからか、産まれたばかりの赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
 目の前に座った妊婦さんは、その大きなお腹をやさしく撫でている。ある人は愛おしそうな、ある人は不安そうな顔をしている。

 その中で、座っていても誰より頭の飛び出た慧悟さんは、異様だった。

 グレーのスーツは光沢を放つ。
 長い足はソファには収まらずに縮こまるように揃えられている。

 ただ座っているだけなのに、華がある。
 それが、幾美家の御曹司というオーラなのだろう。

「ここのお医者様は、女医さんなんだね」

 隣で縮こまる私に、慧悟さんが訊ねてきた。
 こくりと頷くと、「優しい?」とまた訊かれた。

「優しいですよ、とても」

「そう。それを聞いて安心した」

 慧悟さんは爽やかに笑った。
 すると、なぜか待合室がざわついた。
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