シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 言いながら、涙が溢れてきてしまった。

 全部、私のわがままだ。
 私は慧悟さんとのこと以上に、幾美家を壊したくなかった。
 奥様の言うことはもっともだと思ったし、だからベリが丘を離れた。

 私と慧悟さんは、結ばれちゃいけない。
 幾美家を壊さないために、その選択しかとれなかった。

 けれど、それで慧悟さんの気持ちを置いてけぼりにしてしまった。
 私は、幾美家も慧悟さんの未来も壊したくなかった。
 けれど、そんなことは慧悟さんは望んでいなくて――

 考えれば頭がぐちゃぐちゃになる。
 何が正しかったのだろう。どうすればよかったのだろう。

 考えれば考えるほど、涙が溢れてしまう。
 そんな私の頭を、慧悟さんは撫で続けてくれた。
 
「だから、私は慧悟さんの隣にいることも、パティシエールでいることも捨てるつもりでした。幾美家が、慧悟さんが幸せになれるならそれでいいって。私はいらないって――」

「そんなことはないって、今は分かってるよね?」

 慧悟さんの言葉に、私はこくりと頷く。

「大丈夫。何も捨てなくていい未来を、僕が作るから」

 慧悟さんは頬に流れた私の涙を指の腹で拭った。
 窓の外はもう暗くなっている。

「明日から、仕事でしばらくシンガポールに行くんだ。今度は、逃げずにここで待っていてね」

 慧悟さんはそう言って、私の頭をぽんぽんと撫でて病室を出て行った。
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