シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「テレビは消しましょうか」

 彩寧さんがそう言って、つけっぱなしのテレビの方へ向かう。

「待って、消さないでください!」

 思わず叫んでしまった。
 幾美硝子は慧悟さんが社長を務める会社の一つ。そこが、経営不振だなんて――。

「――息子だからと『幾美』の名に甘んじていないで、恥じない経営をして欲しいものですよね」

 コメンテーターの慧悟さんに対する厳しい言葉は、私の鼓膜を刺す。

「やっぱり消しましょう、ね?」

 彩寧さんがそう言って、テレビを消す。病室の中が、静かになった。
 その静けさは、私の思考をクリアにしていく。どんどんと、頭が回っていく。

 慧悟さんの会社が経営不振なのは、慧悟さんが無理をしていたからではないか。
 脳裏に現れた疑念は、クリアになった思考のなかでどんどんと膨らんでいく。

 思い出すのは、ホテルでの二人暮らしの合間、パソコンを何度も開いていた慧悟さん。
 私の居場所をつきとめ、産院の前で待っていてくれた慧悟さん。
 私がベリが丘を離れていた間中、私を探し回っていたのかもしれない。

 彼の時間は、私なんかに使われるべきではなかったのに。
 彼の仕事の時間を奪ってしまったのは、きっと私だ。

 幾美硝子を経営不振に陥らせたのは、きっと私なのだ。
< 142 / 179 >

この作品をシェア

pagetop