シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
そこに愛があるのなら

25 私の意志で

 それから、数日後。約束を取り付けたその日に、幾美家ご夫妻がそろって病室にやってきた。
 その表情はいつになく硬い。怒っているような、威厳があって逆らえないような雰囲気を醸し出す。
 ぴりりとした空気の漂う中、口火を切ったのは奥様だった。

「希幸さん、ベリが丘に戻ってきていたのね」

「はい、すみません」

 奥様には慧悟さんの前に現れないと宣言し、ベリが丘を出た。
 住む家まで提供してくれたのに、私は慧悟さんに連れられてベリが丘に戻ってきてしまった。
 彼女がお怒りになるのも、無理はない。

「まだ慧悟と会っていたのね。会わないって、約束まで取り付けたのに」

「申し訳ございません……」

 慧悟さんの方から会いに来たから――などと、言い訳を並べられる雰囲気ではない。
 私はただ、謝るしかできない。

 けれど、言わなくては。
 私が胸の中に決めた想いを。
 せっかく、彩寧さんに呼んでもらったのだから。

「奥様、私はもう慧悟さんとは――」

 その時、ガシャン! と大きな音を立てて病室の扉が開いた。

「希幸っ!」

 はっとして、飛び込んできた彼を見つめてしまった。

 ――何で? 今、シンガポールにいるはずなのに……。

 息を乱し、壁に手をつく彼は、まぎれもなく、私の愛しい人だった。
< 146 / 179 >

この作品をシェア

pagetop