シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「慧悟。あなた、何をしに――」

「希幸はお腹に俺の子を宿してる。その子のためにも、俺は希幸と結婚する」

 奥様の言葉を遮り、慧悟さんが言う。

「まだそんなことを言っているの? それは許さないって、この間も伝えたでしょう」

 静かに、でも威厳たっぷりに、奥様が言う。

 ――慧悟さんは、ずっと奥様を説得してくれていたの?

 嬉しいけれど、それを奥様が赦していないという事実も明らかになる。
 やっぱり、私は幾美家にはそぐわない。

「でも、僕が結婚するのは希幸だ。希幸じゃないとダメなんだ。それ以外なら、僕は誰とも結婚なんてしない」

「そうやって一時の感情に流されるから、会社もうまくいかないのよ。然るべき相手と結納をして、祝福されて、結婚すればそれでいいの。そうすれば、会社だって安泰なのに」

 奥様はあきれたようにため息を零す。

「あなただって分かっているでしょう、慧悟。この庶民に、幾美家の嫁は務まらないわ」

 奥様が言うと、慧悟さんは目尻を吊り上げる。
 こんな顔をする慧悟さんを、私は初めて見た。

「母さんは考え方が古いんだよ! 別にいいじゃないか、家とかそういうのは」

「幾美家は名家と結婚することで、その誇りを維持してきたのよ! 希幸さんの方が、そのことを良く分かっているようだったけれど」

 突然出てきた自分の名に、心臓がドキリと跳ねた。
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