シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「希幸、そんなこと――」

「慧悟さんは黙ってて!」

 思わず止めてしまった。
 私は、私の意志で、慧悟さんから離れたいのだ。

「私は慧悟さんとの子供を身ごもってしまいました。産みたいと思ったのは、私のわがままです。そんな私に、奥様が手を差し伸べてくれたのだと、私は思っております」

 だから、住む場所もくれた。
 出産費用だって、出してくれたのだ。

「私はもう、これ以上慧悟さんとは関わるつもりはありません。私は幾美家にも迷惑をかけるつもりもありません。私は一人で生きていこうと思います」

「希幸、そんなこと言うな!」

 耐えられなくなったのか、慧悟さんが言う。
 彼は、怒ったような困ったような、怖く優しい顔をしている。

「大丈夫、慧悟さん。私ね、慧悟さんが悲しくならないように、彩寧さんにお願いしたの」

 どうか私を止めないで。
 どうか、私をこれ以上引き止めないで。

 そう願いながら、言葉を紡いでゆく。

「このお腹の子、あなたに差し出します。慧悟さんが、育てて欲しい」

 言いながら、慧悟さんとの愛の結晶がいるお腹をそっと撫でた。

 慧悟さんが私の子を抱えている未来を想像する。
 それなら、私も幸せだ。慧悟さんを、その子を想いながら、一人でも生きていける。

 こんなこと、母親としては失格かもしれない。
 けれど、これでいい

「馬鹿なことを言うな!」

「彩寧さんとも話して、私が出した結論です。慧悟さんと彩寧さんが結ばれる。それが一番いいんです」

 本当は泣きたい。
 泣きながら、慧悟さんの隣りにいたいと叫びたい。

 けれど、それじゃダメだと、私が決めた。
 愛がここにあれば、それでいい。
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