シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「オーナー、」

 私は口を開いた。

「オーナーなら、私の気持ち分かってくれますよね? 結ばれなくとも、幸せになれるって」

 けれども、オーナーは困ったような顔をして口を噤む。

「あなたは独身だったわよね、姫川さん」

「ええ」

 奥様の問いに、オーナーはすぐに口を開く。

「慧悟、姫川さんのように生きる人もいる。あなたは幸いにも、ちゃんと結納を済ませた婚約者だっているの。もう一度良く考えなさい」

「母さん……でも、僕は……」

 慧悟さんを思うと心苦しいが、多勢に無勢だ。
 慧悟さんは項垂れたまま、拳を握りしめている。

「慧悟さん、私はもういいの。だから……」

 諦めて。
 私は一人で、生きていくの。
 そう、言おうと思ったのに。

「……幾美家にとって、婚姻の相手は名のある財閥の令嬢であることが条件なのですか?」

 オーナーが不意に口を挟む。

「え、ええ。幾美家はそうやって、誇りと名誉を維持してきたのよ」

 奥様がいつか私に言った言葉を繰り返す。

「なら、」

 オーナーはなぜか一度頷き、私の方を向く。

「彼女が姫川家の娘なら、慧悟くんと結ばれても構わない、ということですね」
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