シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 幾美家で過ごして数日が過ぎた。
 どうやら、私が切迫早産気味であることを、慧悟さんが全使用人に通達したらしい。

 食事は全て、ベッドサイドまで家政婦さんが運んでくれた。
 お手洗いに行こうと立ち上がろうものなら、「あああ!」という声が飛んでくる。

 張り止めを飲んでいることも相まって、なぜだか私は病院にいた時よりもベッドに縛り付けられているような生活を送ることになってしまった。

 時折母がやってきて、「調子はどう?」と聞きながら部屋の掃除をしてくれた。

「どうって聞きながら、お母さんの方が嬉しそう」

「そうね、嬉しい。慧悟さんとあなたが結ばれて。私も結婚したわけではないけれど、あの時のように哲哉さんに会えるようになって。少しずつ、止まってた時が動き出した感じかしら。うふふ」

 こんなお屋敷にいながらも心が休まるのは、母がここにいてくれるおかげもあるのだろう。

 そんなある昼下がりのこと。
 幾美家の奥様が私の部屋を訪ねてきた。

「希幸さん、今ちょっといいかしら?」

 私がここに来てから、初めて顔を合わせる。

「はい……」

 奥様は、慧悟さんと私の未来にずっと反対していた。
 未だに認められていないのではないか。緊張と気まずさで、私の身体は固くなった。

 読んでいたお菓子の本をパタリと閉じ、ベッドサイドに置き、その場で姿勢を正す。

 奥様はベッドサイドに置いてあった一人用の腰掛にそっと腰を下ろした。慧悟さんが私のそばにいるときに、いつも座っているスツールだ。

「希幸さん、その、……ごめんなさいね」
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