シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 突然扉ががちゃりと開く。
 飛び込むように入ってきたのは慧悟さんだった。

「母さん、希幸をいじめてたんじゃ……」

 慧悟さんはお母様を睨むように鋭い視線を向ける。
 けれど、私は振り返ったお母様と目くばせをして、笑い合った。

「ふふ、女性同士で話したいこともあるのよ。ねえ、希幸さん」

「はい」

 私が答えると、慧悟さんは狼狽えるように怪訝な顔をした。

「あ、そうそう。お腹の子、私の手を蹴ったのよ。慧悟はまだ触れてもないそうね」

 お母様はそう言うと、うふふと笑いながら部屋を出て行った。

「希幸、何か嫌がらせされたりしてない?」

「もう、大丈夫だって。慧悟さんは過保護すぎるよ」

 言いながら、慧悟さんは駆け寄るようにこちらに来ると、先ほどまで奥様が座っていたスツールに座った。

「母さんと何を話していたの?」

「女同士の、秘密の話」

 ふふっと笑うと、慧悟さんは分かりやすくむすっと顔をしかめた。
 彼のこういう顔は、きっと私しか知らないだろう。

「もういい、お腹の子に訊く」

 そう言って、慧悟さんは私のお腹に手を乗せる。
 けれど、赤ちゃんは眠ってしまったのかぴくりとも動かない。

「さっきまでは動いてたんだよ。お母様も、触ってくれて――」

 慧悟さんは不貞腐れたように私の上から手を退ける。
 けれどその顔は、微笑んでいる。

 大好きだ。

 秋の柔らかい日差しの入る部屋の中で、私の心は満たされていく。
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