シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

28 新しい家族

 木枯らしが吹く季節を過ぎ、冷たい空気がベリが丘を包む。
 正期産の期間に入り、私は医師に言われるがまま運動に励んでいた。
 といっても、幾美家のお屋敷の中を歩き回ったり、階段を登ったり下りたりするだけだが。

 お腹の子はもう、いつ生まれてきても大丈夫なくらい大きく育った。
 けれど、家から出るには慧悟さんが付きそうことが必須条件だと、彼に言われてしまった。

 今日も元気に階段を登って下りてを繰り返していると、不意に家政婦さんに呼ばれた。

「希幸さん、お時間です」

「ああ、もうそんな時間……!」

 私は慌てて部屋に戻り、用意していたマタニティドレスに身を包む。
 髪の毛をアップに整え、ローズマリーの小花の飾りがついたヘッドドレスを纏う。

「希幸、準備はいい?」

 ノックもなしに慧悟さんが入ってきて、私は慌てて振り返る。

「もう、ノックくらいしてよ!」

「いいでしょ、綺麗な希幸を一番に僕が見たかったんだから」

 そう言われてしまっては、頬が垂れてしまう。

「行こうか、僕のお姫様」

 慧悟さんに差し出された手を取ると、私はゆっくりと幾美家の階段を下りていく。
 今から、懐かしの思い出の詰まった場所、オーベルジュへ向かう。
< 167 / 179 >

この作品をシェア

pagetop