シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「幾美慧悟様、前埜希幸様、お待ちしておりました」

 半年前は一緒に仕事をしていたはずのスタッフたちに出迎えられるのは、何とも変な心地がする。
 けれど、今は私は慧悟さんの婚約者だ。
 彼の腕に自分の腕を乗せ、歩ける奇跡を噛み占めながら、案内された場所は春に慧悟さんと彩寧さんが座っていた場所、半個室の席だった。

 けれど、あの時とは違う。
 幾美家からの結納の品が、壁際にずらりと並べられている。

 もうすでに到着している幾美家のご夫妻と、オーナーが歓談していた。
 私たちが登場すると、二人はさっそく座るよう言う。

 私たちは、今から結納を交わすのだ。
 母は姫川家に輿入れをしていないので、欠席だ。

 形式的なものが終わると、すぐに慧悟さんは私と二人になれるよう取り計らってくれた。
 私が緊張から解放されるように、という気遣いなのだと思う。

「希幸、どうする? もう帰る?」

 言われるけれど、私は懐かしいオーベルジュの中を見てみたくなった。

「お庭とか、畑とか、散策してもいい?」

「もちろん。希幸なら、そう言うと思っていたよ」
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