シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 それから一か月が経った。
 慧悟さんは忙しい仕事の合間を縫って、ベリが丘をのんびりと散歩に連れ出してくれるようになった。
 一緒に行った検診で、「もっと歩くこと」とお医者様に言われたのが響いたのだろう。

 しばらくベッドの上で、正期産に入ってからも幾美家のお屋敷の中を歩き回るくらいしかしていなかった私にとって、なかなか外出は大変だった。
 けれど、歩けばどこにでも慧悟さんとの思い出がある。
 だから、慧悟さんとのお散歩中の会話は絶えなかった。

 ベリが丘は、私にとってとても大切な場所なのだと、彼と歩くと思い知らされる。 

 そんな年の瀬。
 久しぶりに雪の降る、寒いクリスマスイブの夜。
 突然の背中の痛みに襲われて、私はお母様を呼んだ。

「お母様、もうダメです痛すぎて――」

「大丈夫よ、陣痛ってそういうものだから!」

 お母様は慌てる私を車に押し込めると、自ら車を運転して私を病院へと連れていってくれた。
 着いた時には痛みの間隔がピークに達していて、私はすぐに分娩台にあがった。

 慧悟さんが駆け付け、私の手を握ってくれる。
 何度もいきみ、力を抜いて、泣きそうになりながら我が子の誕生を願う。

「――産まれましたよ、元気な女の子です!」

 おぎゃあ、おぎゃあという小さな産声が聞こえて、ほっと胸をなでおろした。
 助産師さんが抱き上げてくれた、未だ小さな我が子を胸に乗せ、対面する。

「希幸と、僕の赤ちゃんだ……」

 慧悟さんの目にも涙が浮かぶ。
 私たちは、きっと誰よりも幸せな〝家族〟だ。
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