シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

29 ウェディングケーキ

 あれから、暖かな春を通り越し、雨の季節がやってきた。

 私は父であるオーナーの口添えもあり、オーベルジュのデセール部門のシェフに復帰した。
 どうやら、私のデセールを待っていてくれた人もいるらしい。

 幾美家では、お母様に「その才能を活かさないのはないのと同じ。勿体ない」と言われ、幼い娘の面倒は家政婦さんたちと協力して行うことにした。

 長雨の晴れ間の今日、私はコックコートを着て、特別なプレートにパイピングでカリグラフィを施していた。
 純白のドレスとタキシードを象ったムラング(メレンゲ)のシュクルリーを乗せ、『Best wishes on wedding』――『結婚おめでとう』の文字を描く。

 こんな細かい作業は久しぶりだが、キラキラと輝くプレートを作っていく作業は心が踊る。

「どう、調子は?」

 料理長が後ろから私の様子を覗きに来た。

「もう、幸せでいっぱいですよ!」

「あはは、まだ何も始まっていないのに」

「でも、今夜には――」

「ああ、そうだね。頑張って」

 微笑みを残して去っていく料理長。
 私は2段ケーキの一番上にそれを飾り付け、リボンを模した飴細工で飾り付けた。

 このケーキの出番は、今夜だ。
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