シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 私は慧悟さんとは結ばれない。
 それを知ってからは、せめて自分の勘違いを恥じないようにと、パティシエールを志した。
 
 前埜(まえの)家は、代々幾美家に仕える家政婦の家系だ。
 私の母も、祖父母も皆、幾美家に仕えてきた。
 だから母は、私も幾美家で働くとばかり思っていたらしい。

 けれど、私は慧悟さんとの約束を果たすため、高校卒業後は製菓専門学校へ進学を希望した。
 夢のために直談判した私をすんなりと認めて幾美家に相談してくれた母、そして私の進学に祝い金まで出して夢を応援してくれた幾美家の皆様には、感謝しかない。 

 その恩を忘れぬよう、専門学校では常に成績上位をキープした。
 その甲斐もあり、卒業時に成績優秀者となった私は卒業後のフランスへの留学権を手に入れた。

 学校からの留学期間は2年だったけれど、私は志願してフランスに残り、パティシエールになるべく高級ホテルで修行を積んだ。

 フランスで過ごした5回目の秋、慧悟(けいご)さんが結納をされたと母から連絡があった。
 それで、私は幼い頃の約束を果たすため、このベリが丘に戻ってきたのだ。

 懐かしい、どこかラグジュアリーな雰囲気の漂う空気。
 駅を出て、先程ホームから見た桜並木の下を歩く。
 老舗の高級店が連なる通りを左へ曲がり、悠然と佇む大使館の裏の道へ入る。

 大きな木々がそびえる、大使館の裏の細道。
 道の反対側、レンガ作りの塀の間に、繊細なレース刺繍のような鋳物の門扉が現れる。

Auberge Le Belvédère(オーベルジュ・レ・ベルべデール)』。

 ここが、今日から私が働く、会員制の高級オーベルジュだ。
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