シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
4 思い出のガトーショコラ
手早くガトーショコラを作る。
オーブンから取り出したそれを型から取り出す頃には、時計の針は十一時を過ぎていた。
濃厚なガトーショコラに合わせるホイップクリームは甘みを抑えた。
泡立てたそれを冷ましたガトーショコラに乗せ、ミントの葉とフランボワーズを添える。
あの頃よりは上達しただろうケーキを二つ、ワゴンに乗せクローシュをかけた。
付け合わせに選んだ紅茶はアールグレイ。ブランデーも用意した。
レセプションに連絡し、今からお部屋に運ぶ了承をもらう。
私はそっとワゴンを押しながら、慧悟さんの泊っている部屋へと運んだ。
*
「失礼致します」
ノックしたドアから、すぐに鍵を解除する音が聞こえた。
扉がガチャリと音を立てて開き、私は部屋の前で頭を下げる。
「ガトーショコラを、お持ちいたしました」
「待っていたよ、希幸」
優しく柔らかな声が聞こえて、顔を上げる。
にこやかな笑みと視線が交わって、トクリと胸が鳴る。私は慌ててワゴンに手を伸ばした。
「どうぞ、入って」
促され、私は慧悟さんたちの泊まる部屋に足を踏み入れた。
宿泊スペースに入るのは、初日の見学以来だ。
慧悟さんの泊まるこの部屋は、オーベルジュにある全ての客室の中でも一番広いお部屋だ。
まるでどこかのお屋敷のような、高価な調度品たちがオレンジ色の間接照明に照らされ、輝いている。
花柄の壁紙に囲まれた静かな部屋の中、パチパチと暖炉の火が優しい音を立てている。
部屋の中を不躾にも見回してしまい、改めてこのオーベルジュの客層を意識させられる。
と、同時に気づいたことがある。
「あの、彩寧さんは――」
「彩寧はいないよ」
オーブンから取り出したそれを型から取り出す頃には、時計の針は十一時を過ぎていた。
濃厚なガトーショコラに合わせるホイップクリームは甘みを抑えた。
泡立てたそれを冷ましたガトーショコラに乗せ、ミントの葉とフランボワーズを添える。
あの頃よりは上達しただろうケーキを二つ、ワゴンに乗せクローシュをかけた。
付け合わせに選んだ紅茶はアールグレイ。ブランデーも用意した。
レセプションに連絡し、今からお部屋に運ぶ了承をもらう。
私はそっとワゴンを押しながら、慧悟さんの泊っている部屋へと運んだ。
*
「失礼致します」
ノックしたドアから、すぐに鍵を解除する音が聞こえた。
扉がガチャリと音を立てて開き、私は部屋の前で頭を下げる。
「ガトーショコラを、お持ちいたしました」
「待っていたよ、希幸」
優しく柔らかな声が聞こえて、顔を上げる。
にこやかな笑みと視線が交わって、トクリと胸が鳴る。私は慌ててワゴンに手を伸ばした。
「どうぞ、入って」
促され、私は慧悟さんたちの泊まる部屋に足を踏み入れた。
宿泊スペースに入るのは、初日の見学以来だ。
慧悟さんの泊まるこの部屋は、オーベルジュにある全ての客室の中でも一番広いお部屋だ。
まるでどこかのお屋敷のような、高価な調度品たちがオレンジ色の間接照明に照らされ、輝いている。
花柄の壁紙に囲まれた静かな部屋の中、パチパチと暖炉の火が優しい音を立てている。
部屋の中を不躾にも見回してしまい、改めてこのオーベルジュの客層を意識させられる。
と、同時に気づいたことがある。
「あの、彩寧さんは――」
「彩寧はいないよ」