シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 私が腰掛けると、慧悟さんはウェイターのように椅子を入れてくれる。
 それから、もう一組用意していたガトーショコラの前に腰掛けた。

「あの、彩寧さんはどうして――」

「どうもこうもないさ。帰りたいから帰った。僕は泊まることにした。それだけ」

 慧悟さんは何でもないように、笑ってそう言う。

 結納まで済ませた、婚約者同士なのに。
 違和感を感じるけれど、慧悟さんと二人きりという事実は、私の中に膨らんではいけない期待を湧き上がらせた。

 それにしても、お客様とテーブルを共にするなんて初めてだ。
 どうしていいか分からず、私は肩を吊り上げ膝に手を置き座っていた。

「頂こうか。せっかくの紅茶が冷めてしまうから」

「わ、私がサーブします!」

 ティーポットに伸ばした手が、慧悟さんのそれと触れてしまった。
 慌てて引っ込める。
 すると、慧悟さんはふふっと笑みをもらした。

「いいよ、僕がやる」

「で、ですが――」

「希幸は僕のためにケーキを焼いてきてくれたんでしょう? だから、これは僕にやらせて?」

 慌てる私を笑顔で制し、慧悟さんはティーポットの横に添えたブランデーの瓶に手を伸ばした。

「コニャックか。希幸はお酒も大丈夫?」

「はい、そこまで弱い方でもないので」

 椅子に座り直したけれど、緊張で心臓がバクバクとなっている。

「そう、良かった」

 そんな私に微笑んで、慧悟さんはカップに紅茶を注ぐ。
 ベルガモットの爽やかな香りが鼻に届き、次いでふわんと濃厚なブランデーの香りが漂った。
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