シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「懐かしいな、希幸のガトーショコラ」

 慧悟さんはそう言って、自分の前のケーキにフォークを入れた。

「ん、美味しい」

 慧悟さんは一口食べると、すぐにこちらに微笑む。
 それだけで胸が満たされるのは、もちろんパティシエールとしてケーキを褒められたからだけではない。

 私は、慧悟さんの微笑みに、幼い日のことを思い出す。

 *

 幾美家のパーティーは、クリスマスや誕生日など、特別な日に行われていた。
 父母や母の働く幾美家の人は皆優しくて、幼く落ち着きのなかった私をもその日は手伝い要因として迎えてくれていた。
 皆がバタバタと動く中、まだ小学生にもならない私もお使いを頼まれ、お屋敷内の別の部屋に何かを届けようとしていた。

 その時が、初めてのお使いだった。
 けれど、幾美家のお屋敷は広く、すぐに迷ってしまった。

 どうしよう。

 そんな不安な私の耳に、美しいピアノの旋律どこからか聞こえてきた。

 あっちに行けば教えてもらえる!

 慌てて音の部屋を探り、扉を開く。
 ピアノの音はすぐに止まる。
 私は、ピアノの前に座っていた少年に目を奪われた。

 黒髪の、清楚な少年。
 整った鼻筋が、幼いながらにまるで絵に描いたみたいだと思った。

「どうしたの?」

 彼は立ち上がり、私の元へやってくる。
 それだけで心臓がおかしいくらいにドキドキした。
 私はきっと、その時にはもう恋に落ちていたのだと思う。

「ま、迷子になっちゃったの!」

 慌てて言うと、彼はふっと笑って私の頭を撫でてくれた。

「それ、届けるの?」

 コクリ、と頷く。
 すると、彼は私の手をきゅっと握ってくれた。

「一緒に行くよ、小さなお姫様」
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