シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 *

「あの頃よりは、腕も上がりましたから」

 言いながら、あの頃は私と慧悟さんが結ばれるとばかり思っていた自分を思い出し、恥ずかしくも苦しくなった。

 大好きな彼とは、結ばれない。
 『僕たち』の中に、『私』は含まれない。

 大人になった今はそれが当たり前のことだとちゃんと理解できるのに、目頭が熱くなる。
 泣きそうになり、ごまかそうと慌ててガトーショコラを口に押し込んだ。

 濃厚なチョコレートの味が口の中に残って、甘ったるいそれを消し去りたくなる。
 添えられたクリームを掬い、口に放った。

「そうか、このクリームも一緒にいただくんだね」

 慧悟さんは私の真似をして、クリームをそっと掬った。

「こっちは甘くないんだ」

「……すみません」

 慧悟さんの好みに合わせるなら、クリームまで甘くするべきだった。彼が甘党だと知っているのに、そんな凡ミスをしてしまう。
 どうやら私は、相当動揺していたらしい。

 だめだなあ。

 腰に回していた白いエプロンを、膝に置いた手が握った。 

 もしかしたら、このガトーショコラも美味しくないかもしれない。
 今の私には、味がわからない。

 口から勝手に、ため息がこぼれ落ちる。

 ごめんなさい。
 今の私は、このオーベルジュにふさわしいパティシエールじゃない。

 そう思ったのに。

「ウェディングケーキも、チョコレート系がいいな」

 慧悟さんはそう言って、私の頭に大きな手を置いた。
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