シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 どうやら、私の聞き間違いではないらしい。
 そして、私の恋心すらバレていたらしい。

 好きだった。
 大好きだった。
 だから、見送りに来てくれなかったのはとても悲しかった。
 ベリが丘を離れるときに、慧悟さんだけあの場に現れなかったのが。

 けれど、あの時は確か――

「慧悟さんは、用事があってどうしても来れないって奥様が……」

「母さんがそんなこと言ったのか」

 慧悟さんはため息をついた。
 顎に指を置き、何かを吟味するように鋭い視線で足元を見る。
 けれどすぐにこちらに向き直った顔は、既ににこやかは微笑みに戻っていた。

「僕が希幸のことをどれだけ好きだったか、希幸に伝えたい。会えない間、どのくらい君に恋焦がれていたか教えたい。もしも、希幸の想いが僕のうぬぼれじゃないのなら、僕のエゴじゃないのなら……、受け取って欲しいのだけれど」

 そう言った慧悟さんは、私の方に右手を伸ばす。
 触れようと思えば、触れられる距離。
 けれど慧悟さんの伸ばした手は、私の頬に触れる直前で止まる。
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