シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
切ない再会

1 デセール部門のシェフとして

「本日のミーティングを始めます」

 オーベルジュの総料理長・(たつみ)料理長の言葉に、私は今日の予約者名簿をぱらぱらとめくった。

佐伯(さえき)家のご夫婦は魚料理を、本日はスズキの――」

 料理長がメニューについての説明をする。
 けれど、私の耳にはそれが右から左に流れていく。

 名簿の中に、彼の名前を見つけたのだ。

 『幾美 慧悟様』。
 並んで、『城殿(きどの) 彩寧(あやね)様』。

 ――本当に、ご婚約されたんだ。

 連名で書かれるのは、ご一緒に、の意味。

 オーベルジュで働き始めてから、2週間。
 ついに、この日がやってきた。

「前埜さん、デセールの説明をお願いします」

「はい!」

 名を呼ばれて、立ち上がる。
 私は、このオーベルジュの、デセール部門のシェフなのだ。

「佐伯家のご夫妻には、ご予約の際にぜひと打診のあった――」

 料理長とは、今朝のうちに打ち合わせをしてある。
 それを、ここで働くスタッフに共有し、失礼のないようお迎えできるようにする。
 それが、このミーティングの目的だ。

「それから、私事で恐縮なのですが、幾美家の慧悟様、城殿家の彩寧様には、私がデセールをお持ちいたします」

 これも、今朝料理長に申し出たことだ。
 二人のご婚約を祝福し、ウェディングケーキを作りたいと伝えたかった。

「ご交友があるのなら、ちゃんとご挨拶した方がいいからね」

 料理長はそう言って、私の申し出を許可してくれたのだ。

「以上、本日もよろしくお願いいたします」

 料理長の声が響く。
 私も、今日も最高のデセールを楽しんでもらおうと、自分に気合を入れた。
< 3 / 179 >

この作品をシェア

pagetop