シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

6 再会の熱が冷めたら

 はっと目が覚める。
 身じろぐと、ぴたりと何か温かいものに触れた。
 私は産まれた姿のまま、慧悟さんの腕枕で寝ていたらしい。

 慧悟さんの顔がすぐ真横にある。
 彼は、すー、すーと寝息を立てている。

 初めて見る慧悟さんの寝顔は、いつもよりあどけない。
 時折ぴくぴくっと動くまつ毛にも、愛しさを感じる。

 けれど幸せな気持ちは一瞬で、すぐに気付く。
 そんなことを思っている場合ではない、と。

 ――とんでもないことを、してしまった。

 私は、こんな慧悟さんの無防備な姿を見ていいはずがない。

 慌てて、でも慧悟さんを起こさないようにベッドから抜け出した。
 床に散らばった服を急いで拾い集め、さっと身に着ける。

 私はこのオーベルジュの、パティシエールなのだ。

 乱れた髪を整えて結び、急いでベッドルームを後にする。
 隣の部屋の暖炉は消えていて、オレンジ色の間接照明が照っていた。まだ外は暗い。

 バクバクと、心臓が厭な音を立てている。
 私は扉に寄りかかり、そっと自分の胸に手を当て、短い呼吸を繰り返した。

 犯してはいけないことを、犯してしまった。
 慧悟さんに、抱かれるなんて。

 4月の夜のひんやりとした空気に、自分の心も凍ってしまえばいいのにと思う。
 そうすれば、痛みも感じない。罪悪感も感じない。痛くなくていい。

 ここにいてはいけない。
 咄嗟にそう思い、私は急いでガトーショコラの皿とティーセットをワゴンに乗せ、彼の部屋を出た。
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