シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 誰もいない厨房に戻り、皿を流し台に下げる。
 スポンジを泡立てながら、自分自身を落ち着けるように皿洗いに集中した。

 まだ散らばっていた調理器具も洗う。
 消毒をして、所定の位置に戻す。

 流れ作業のように淡々とそれをこなしていく。
 そうしていないと、余計なことを考えてしまいそうだ。

 忘れろ、忘れろ。
 あれはきっと、一夜のご褒美。
 
 先程までのことを思い出し、慧悟さんに触れられたところが疼き出す。
 けれど、それは私は知ってはいけなかった熱だ。

 どんなに『好きだ』と言われても、互いに想い合っているのだとしても、私は慧悟さんとは結ばれない。
 そういう運命だから、仕方ない。

 ちゃんとわきまえていたはずなのに。

 理性のタガというものは、簡単に外れてしまう。
 そのくらい、恋は怖いものだ。

 流れ作業は終わってしまい、誰もいない真夜中のオーベルジュの中、のそのそと社員寮に戻った。
 力なくベッドにダイブし、天井を見上げた。

 盛大に零したため息が、静かな部屋に響く。

「本当、なんてことをしてしまったんだろう……」

 呟けば、胸のドクドクという音はより大きくなる。

 唇に触れれば、ひんやりとした指先の感覚に慧悟さんの熱を思い出してしまう。
 先ほどまで、触れ合っていた肌と肌の感覚を思い出してしまう。
 優しく、熱い彼の衝動を思い出してしまう。

 同時に、自分のしてしまったことの重大さに震え、顔から血の気が引いていく。
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