シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
一介のパティシエール
7 渡せなかったバレンタインチョコレート
泣きながらいつの間にか眠ってしまったらしい。
目が覚めるともうすでに日が昇っていて、慌ててシャワーを浴び、新しいコックコートに袖を通した。
社員寮を出て、オーベルジュに向かう通路を歩く。
ベリが丘という都会にいるのに、この場所だけはいつも小鳥がさえずり、のんびりとした空気が流れている。
落ち込んだ気分を切り替えるように、その澄んだ朝の空気をいっぱいに吸い込んだ。
――大丈夫。いつも通りに。
昨日のことは、なかったことにするんだ。
よし、と気合を入れていると、向かいから料理長がやってきた。
「前埜さん! よかったここにいた」
「もうそんな時間ですか!?」
部屋を出た時はまだ7時だった。
料理長との打ち合わせは8時から、ミーティングは10時からだ。
「いや、まだ全然平気なんだけれどね」
料理長はそう言いながら、こっちこっちと手招きする。
慌てて料理長の隣に並んだ。
二人で、厨房への通路を急ぐ。
「急で申し訳ないんだけれど、幾美家本家のご夫妻から今夜ご予約があったんだ。前埜さんに、ぜひ会いたいって」
「旦那様と奥様が……!」
幾美家本家のご夫妻――慧悟さんの、お母様とお父様だ。
二人の顔が脳裏に浮かび、同時に昨夜のことを思い出す。罪悪感が胸を支配し、ぶるりと身体が震えた。
「前埜さん、リラ~ックス」
料理長はそう言って笑うけれど、私にとっては一大事だ。とてもお世話になったお二人が、ご来店される。
私の胸にはずっしりと、先ほど切り替えたはずの気持ちが戻ってきてしまう。
慧悟さんとのことは、何が何でもバレないようにしないと。
目が覚めるともうすでに日が昇っていて、慌ててシャワーを浴び、新しいコックコートに袖を通した。
社員寮を出て、オーベルジュに向かう通路を歩く。
ベリが丘という都会にいるのに、この場所だけはいつも小鳥がさえずり、のんびりとした空気が流れている。
落ち込んだ気分を切り替えるように、その澄んだ朝の空気をいっぱいに吸い込んだ。
――大丈夫。いつも通りに。
昨日のことは、なかったことにするんだ。
よし、と気合を入れていると、向かいから料理長がやってきた。
「前埜さん! よかったここにいた」
「もうそんな時間ですか!?」
部屋を出た時はまだ7時だった。
料理長との打ち合わせは8時から、ミーティングは10時からだ。
「いや、まだ全然平気なんだけれどね」
料理長はそう言いながら、こっちこっちと手招きする。
慌てて料理長の隣に並んだ。
二人で、厨房への通路を急ぐ。
「急で申し訳ないんだけれど、幾美家本家のご夫妻から今夜ご予約があったんだ。前埜さんに、ぜひ会いたいって」
「旦那様と奥様が……!」
幾美家本家のご夫妻――慧悟さんの、お母様とお父様だ。
二人の顔が脳裏に浮かび、同時に昨夜のことを思い出す。罪悪感が胸を支配し、ぶるりと身体が震えた。
「前埜さん、リラ~ックス」
料理長はそう言って笑うけれど、私にとっては一大事だ。とてもお世話になったお二人が、ご来店される。
私の胸にはずっしりと、先ほど切り替えたはずの気持ちが戻ってきてしまう。
慧悟さんとのことは、何が何でもバレないようにしないと。