シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 幾美家へはいつも、母に連れられて行っていた。だから、一人で行くのは初めてだった。
 ベリが丘のサウスエリアにある私の家から幾美家までは、歩いていける。ショッピングモールを抜け、ベリが丘駅につくと、左手に広がるのは櫻坂だ。
 そこは、ベリが丘の中でも一層ラグジュアリーな雰囲気の漂う通りだ。歩いているだけで、私も大人になったような気分になる。

 一番大人っぽいワンピースにコートを羽織り、髪はポニーテールにまとめ、唇には紅色のリップを塗ってきた。

 櫻坂の通りを歩きながら、その豪華なイルミネーションに心が踊り、その分余計に緊張も高まった。
 けれど、道行く大人たちに紛れて、私もこれから慧悟さんと恋人同士になれるんだという妙な自信も沸いてきた。

 登り切った坂の先、ノースエリアに広がる超高級住宅街。
 こちらと仕切られた門の向こうに、慧悟さんの住む幾美家がある。

 意気揚々とその門を通ろうとして、そこにいた守衛さんに止められた。

「すみませんが、どちらの関係者の方ですか?」

 へ? と首を傾げる。
 守衛さんは大柄で、とても怖い顔をしている。まだ身長の140センチだった私は、その威圧感に怯んでしまった。

「えっと……」

 当時の私は知らなかったのだ。
 ノースエリアの門の先、高級住宅街に住む人たちが、日本に暮らす有数の富豪ばかりであることを。
 この門を通れるのは、選ばれた者のみであることを。
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