シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 オーベルジュとは、宿泊施設のついたレストランのことだ。
 美味しい料理を嗜んでいただき、そのまま泊まれるようにとオーナーが作り上げたこのオーベルジュは、富裕層しか入ることを許されない会員制であることも相まって、今ではベリが丘の憧れの地にもなっている。

 外観は、まるでフランス・プロヴァンスにある大邸宅のような白亜の宮殿(シャトー)
 一階はレストラン、二階部分が宿泊施設になっており、二階の部屋からは坂の上の立地も相まって、ベリが丘の向こうの海が見渡せる。

 門から続く表の庭は、石造りの噴水を囲むようにシンメトリーに設計されたフランス風の庭園が広がっている。
 中庭は、枯山水を思わせる日本風の庭園だ。

 そんな優雅なオーベルジュだが、スタッフは朝から忙しい。宿泊客が帰ると、すぐに清掃に入らなくてはならないのだ。
 料理人(キュイジニエ)ももちろん例外でなく、厨房の掃除と仕込みに入る。

 私もすぐに厨房に戻り、今日使うフルーツの選定を始めた。

「幾美家のご子息の、デセールは決まったの?」

 料理長が私の元にやってくる。

「はい。最初はショコラ系にしようと思っていたのですが、メインとの兼ね合いでさっぱりとしたフルーツタルトを中心に、ミニャルディーズとフルーツソースを添えようかと」

「お、いいんじゃないか。期待してるよ」

 料理長はそう言って、私の肩をポンと叩いた。
 そのまま他のキュイジニエのところへ、声をかけに行ってしまう。

 私が今、このオーベルジュに、デセール部門のシェフとしていられるのは、彼のおかげだ。
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