シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「関係がないのなら、ここは通れませんのでお引き取りください」

 小学生の私に対しても厳格な態度の守衛さんに、私は言い返した。

「幾美家の慧悟さんに、チョコレートを渡したいんです!」

 けれど、それを彼が赦してくれるわけはない。

「申し訳ございませんが、お名前をうかがっても?」

「前埜希幸です!」

 言えば、彼は無線でどこかへ連絡を入れる。耳元のイヤホンに手を当て、ため息を零した。
 それからかがみこみ、私の顔をじっと見た。

「ここから先は、決まった人しか通すことはできないんだ。君がどこの誰だか知らないけれど、一般の人は立ち入ることはできないよ」

「で、でも、慧悟さんと私は――」

「どこかの令嬢でもない、ただの小学生のお遊びに私は付き合うほど暇じゃないんだ」

 守衛さんはそう言うと、私をあしらおうとする。

「どうしても通してくれませんか!? 私、どうしても今日じゃないとだめで――」

「ダメに決まってるだろう、ここから先に行けるのは、限られた人だけなんだよ。ほら、さっさと帰りなさい」

 どうしても通りたい。
 そんな思いは彼には届かず、だったらと強行突破を試みる。
 門に向かって走り、そこを登ろうと勢いよく跳んだ。

「こら、君――」

 けれどあっけなく腕を掴まれ、そのまま取り押さえられてしまった。

「何をしているんだ!」

 飛んできた怒号に、涙が溢れた。
 慧悟さんに、チョコレートを届けたかっただけなのに。

 その時、一台の車が門の前に停まった。

「あら……」

 そこから降りてきたのは、慧悟さんのお母様だった。
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