シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「慧悟さんのご結納、おめでとうございます」

 ドクドクと脈打つ心臓を悟られたくなくて、私は自ら慧悟さんの話題をお二人に振った。

 奥様の目が、見開かれる。
 けれどそれは一瞬で、彼女はすぐにふふっと上品に微笑まれた。

「あんな愚息も立派に成長したもんだ。……希幸さんもこんなに立派になって、私は本当に嬉しいよ。本当の子供のように思っていたから」

 旦那様がハッハと笑って言う。
 そんなことを、彼らに言ってもらえる筋合いなど、私にはない。
 私は幾美家にとって、最低なことをした。

「希幸さんも、早く良い人と巡り合えるといいわね」

 奥様の言葉に、含まれた意味を考えてしまう。
 そんなものはないのかもしれないけれど、私の心に奥様の言葉はグサッと刺さった。

「はい」

 私は苦笑いで返した。

『慧悟さんと彩寧さん、お二人のご結納を心から祝福いたします』

 本当は、そう伝えるべきだろう。
 そうするために、私はベリが丘に戻ってきたのに。

 そんなことすら言えない。
 心の中に押し込めた感情は、あの頃と何も変わっていなかった。
 それどころか、押し込めた感情の蓋を開け、とんでもない既成事実まで作ってしまった。
 私は最低な女だ。

 それでも必死に、無理矢理に笑顔を作る。
 何も言えない中途半端な私は、自分自身をモヤモヤの渦に引き込んでいくだけだった。
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