シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 慧悟さんが『ご結納された』という吉報を聞いたのは、フランスの老舗ホテル、五つ星レストランでの修行中だった。

 専門学校から頂いた2年の留学期間を越えて私がフランスに残ったのは、慧悟さんのウェディングケーキを作るにはまだまだ実力不足だと思ったからだ。

 幾美財閥の嫡男である慧悟さん。
 そんな彼のウェディングケーキを作るなら、ベリが丘で認められるパティシエールにならないといけない。
 ベリが丘で認められるパティシエールとは、すなわち世界でも通用するパティシエールということだ。

 慧悟さんがご結納をされたのなら、結婚式もすぐのはずだ。
 3か月前に、『récompense do fleur d'or』――フランスに複数ある、パティシエにおける新人賞のひとつをちょうど頂いたところでもある。

 約束を果たすなら、今しかない。

 日本に戻りたいと告げると、当時私の在籍していたフランスのレストランの料理長が教えてくれた。

「昔ここでキュイジニエをしていた日本人が、ベリが丘でパティシエを探しているよ」

「ベリが丘ですか!?」

「ああ。彼の料理は日本らしさも忘れなかった。君と似ているから、気も合うと思うよ」

 私は『ベリが丘』の言葉に、飛びつく勢いでこのオーベルジュに面接を申し込んだ。
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