シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

9 任された大仕事

「なぁ、恵利(えり)。今度のパーティーのドルチェ、希幸さんに頼まないかい?」

 デセールのお皿を下げ、ワゴンを運ぼうとしたところで、その旦那様の声が私を引き止めた。
 振り向くと、私の方を向いていた旦那様の目は輝いていた。

「パーティーのドルチェを、ですか?」

 身体ごと向き直り、改めて訊き直す。
 すると、旦那様は満足そうな笑みを私に向けた。

「いやあ、マカロン・パリジャンもムースもケーキも絶品だったからね。温泉卵を使ったスイーツってのも、初めていただいたけれど、とても美味しかった」

「確かに、味ももちろん美味しかったし、盛り付けもとても美しかったわ。春色のムースはそれだけで綺麗なのに、添えられた金箔が控えめなのに繊細で美しくて」

 お二人は期待のこもったような眼差しをこちらに向ける。
 それから、私のそばに立っていたオーナーに声をかけた。

「どうかな、姫川くん。5月下旬にある幾美家のレセプションパーティーに、希幸さんを借りてもいいだろうか?」

 オーナーは答えず、微笑んだまま私の方を向いた。

「前埜さん、どうする? キミが決めなさい」

「えっと……」

 幾美家という有数の財閥のレセプションパーティーでのドルチェ担当。
 キャリアを積むために、またとない機会だ。

 けれど、私は幾美家への罪を犯している。
 バレてしまうのではないか、慧悟さんに会ってしまったらどうしよう……。

 答えられないでいると、オーナーが私の背を押した。

「オーベルジュのことは大丈夫だよ、デセールを監修してくれさえすれば、あとは料理人(キュイジニエ)が作ってくれるから。私は腕のない料理人は雇った覚えがないからね」

 オーナーの優しい笑み。
 ご夫妻からの、熱い眼差し。

 何より、幾美家への恩返しになるのなら。

「私でよろしければ、ぜひ」
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