シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 面接の時――。
 慧悟さんとの約束をどうしても果たしたいと、心から願っていたあの日を思い出す。
 希望を持って、私はベリが丘に戻ってきたのだ。

 幾美家に認められなくてはと、心が急いていた。
 けれど今は、あの夜の過ちは切り離して、皆に美味しいって言ってもらえるドルチェを作らなくては。

 昔、慧悟さんにもらった『美味しい』みたいな、あんな笑顔に皆がなるような――。

 胸がドクンとなり、ズキンと痛み、キュウッと苦しくなる。

「……あの時のきらきらした君の笑顔こそが、君に将来性を感じさせてくれたんだ。だから前埜さんなら、きっと大丈夫」

 料理長は、どこか遠くを見て微笑んでいる。
 きっと、泣き出しそうな私の顔を見ないためだろう。
 泣いてもいいよと、言ってくれているようだ。

 それでも涙をこらえ、私は口を開いた。

「旬の果物や野菜は使いたいんですけど……さっぱりとしたものを求められると、やはりジュレやムースに行き着いてしまって。でも、本当はショコラを使いたくて――」

「ハーブを使ってみるのは? ミントだけじゃなくて、たくさんあるからさ。ほら、使いたかったら、試しに畑から摘んできてごらん? 朝の清々しい空気の中で植物たちを取るだけれで、新しいインスピレーションが沸いてきたりするもの。あ、夜は暗いから行かないようにね!」

 料理長は私の肩を軽く叩いて、片目をつぶって笑って見せる。
 そんな料理長の姿に、私も笑みが漏れた。

「はい、ありがとうございます!」

「頑張りすぎないように、でも頑張ってね」

 そのエールに応えるよう、私は今日のスケッチブックを閉じる。
 明日の朝、オーベルジュの畑へ行ってみよう。
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