シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

10 オーナーとの秘密の話

 翌日、雲一つない良く晴れた朝。
 ゆっくりと東の空が明るんでくるのを背に、私は別邸の一階を抜け、畑へ向かって歩いていた。

 オーベルジュは本邸の裏に中庭があり、その奥には別邸がある。別邸の中は和モダンなバーや、エステサロンになっている。

 社員寮はその隣にあるのだが、別邸の反対隣は畑になっていた。
 新鮮な野菜が使いたいという料理長の意向と、オーナーの趣味で作られた畑らしい。

 初夏に向かう4月終わりの朝は、まだ少し肌寒い。
 冷たい空気は、まるで自分の心を洗ってくれるようだ。
 ダメダメな自分に喝を入れられた気がして、それだけで早起きして良かったと思う。

 オーベルジュは生垣のように建つ高い木に囲まれている。
 新緑の匂いを浴びようと見上げると、不意に瑠璃色の空に小鳥が飛び立った。

 同時に、畑の中で、誰かが立ち上がったのが見えた。
 藍色のジーンズに白いシャツ。首にタオルをかけ、軍手をはめた彼は、このオーベルジュのオーナーだった。

 オーナーは振り返り、私に気がつくと軽く右手を上げる。
 足を止めていた私は、慌てて彼の元へ駆け寄った。

「オーナー、おはようございます」

「前埜さんも早いね。ご苦労ご苦労」

 オーナーはそう言うと、もう一度しゃがみ込む。
 どうやら、畑の世話をしているらしい。

 私もオーナーの隣にしゃがんでみた。
 オーナーの手には、青々とした大きな葉が揺れる苗がある。

「これは何の苗ですか?」

「ズッキーニだよ」

 オーナーは言うと、そっと苗をひっくり返す。
 ビニールポットから優しくそれを取り出し、畑に植え付けながら私に言った。

「料理長から聞いたよ。悩んでるんだってね」
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