シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 オーナーである姫川(ひめかわ)財閥の次男、姫川哲哉(てつや)さんと、オーベルジュの総料理長、巽淳一(じゅんいち)さんと、オンラインで面接をした。

「前埜さんは、どうしてベリが丘のオーベルジュを希望されるのですか?」

「美味しいものを、楽しんで食べてもらいたいからです。ベリが丘のオーベルジュという特別な場所で、美味しい料理と共に、特別な時間を過ごしてほしい。そのお手伝いを、私はしたいと思います」

 胸にあるのは、懐かしい思い出だった。
 幾美家のパーティーで、幾美家の皆様が使用人の娘である私にすらくれた、特別な時間。
 あの時の私は、幸福だった。だから私も、それを提供できる人間になりたい。

「では、なぜわざわざベリが丘にある当オーベルジュを選ばれたのですか?」

「ベリが丘は富裕層も多く住む憧れの街。そこで認められるパティシエールになることは、私の誇りだからです。それに――」

『希幸が大きくなったら、僕たちのウェデングケーキを作ってよ』

 そう言った、あの日の慧悟さんを思い浮かべた。

「私の母は幾美家の家政婦をしております。私自身も、ベリが丘にはたくさんお世話になりましたので、恩返しをしたいと思いました」

 そして、あの約束を果たしたい――。

 そんなオンラインでの面接に加え、受賞歴や作品の評価。さらにはフランスのホテルの料理長の口添えもあって、私はデセール部門シェフ候補として日本に戻ってくることができたのだった。
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