シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「前埜さんにとって幾美家は恩のある家柄だって聞いた。由緒正しき財閥だから、君が気負ってしまうのも分かる。でも、それ以上に君は素晴らしいものを持っているんだから、自信をなくすことはないよ」

 私がうまくいかなかったのは、自信をなくしたからじゃない。
 あの日の罪悪感を振り切れず、少しでも認めてもらいたいという気持ちがあるからだ。

「前埜さんの幾美家への愛情が、きっと前埜さんと幾美家をつなげてくれたんだから」

「幾美家への愛情、ですか……?」

「うん。前埜さんは気付いていなかったのかな? 慧悟くんをお迎えしたときも、御当主をお迎えしたときも。前埜さんはいつもより肩肘張っていたように見えた。それは、前埜さんの愛情でしょ?」

 私が好きなのは、慧悟さんだけなのだと思っていた。
 そうか、私は――

「好きならそれを、その思いを昇華させればいい。前埜さんは、それが得意なんだから」

 ――自分で思っている以上に、彼らが好きなんだ。

 大好きだから壊したくない。
 大好きだから求めたい。

 相反する気持ちが、胸の中で揺れ動く。

 どちらも求めるなんてできない。
 元より、私は慧悟さんを諦めるしかない。

 でも、愛情をかけることはできる。

「オーナー、ありがとうございます」

 また次の苗を手に取ったオーナーの横から立ち上がる。

「無駄話をしただけ、だけれど」

 オーナーは笑いながら、そう言った。
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