シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 ハーブ園はオーベルジュの畑の、本館寄りにある。
 オーナーの元からこちらに歩いてくる頃には、もう日がすっかり登っていた。
 頭上で早起きの小鳥がさえずっている。

 ハーブ園に足を踏み入れた瞬間、優しいハーブの香りが鼻をくすぐる。
 朝の爽やかな空気も相まって、なんだかとても清々しい気分になった。

「ドルチェ……ハーブ……」

 爽やかな笑みを浮かべる慧悟さん。
 優しく微笑む彩寧さん。

 威厳がありながら、温かく寄り添う幾美家ご夫妻。

 誰を思い浮かべても、私の心は温かくなったり冷たくなったりする。
 いろいろな思いが溢れてくる。

 けれど。

『好きならそれを、その思いを昇華させればいい。前埜さんは、それが得意なんだから』

 オーナーの言葉が胸に残る。

 好きだから、胸が痛む。
 けれど、好きだからできることもある。

 何より、幾美家主催のレセプションパーティーなのだ。
 そこに私が誘われた意味は、ただ私がこのオーベルジュのパティシエールだからじゃない。

 きっと、『幼い頃から幾美家を知ってる』パティシエールだからなんだ。

 大好きな人たちを思い浮かべる。
 幾美家を想像して、心を削りながら。

 ハーブの香りに刺激され、ドルチェのイメージをしていく。
 鼻をつんとさせたり、優しく寄り添ってくれたり。

 多様なハーブの香りは、私を引き締め、心の傷を癒やしてくれるようだった。
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