シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

11 選ばれたドルチェ四品

 ローズマリー、レモンバーム、バジルにレモンの花。
 初夏の爽やかさと大好きな幾美家のイメージを合わせたら、自然と摘んでいた。

 摘みたての葉を腕に抱え、急いで厨房に運ぶ。
 部屋に戻ってコックコートに着替えると、足取り軽く厨房へ戻った。

 私が引っかかっていたもの。胸につかえていたもの。
 それが取れた気がする。

 今日のオーベルジュは店休日。
 だから朝から厨房を使っても、誰に怒られるわけではない。
 朝食の用意をするために、何人かの料理人はいたが。

 ローズマリーを枝から外し、みじん切りにしていく。
 新緑の爽やかな香りが、厨房内に広がった。
 バジルもみじん切りにする。
 先程よりも少し甘めな、でもスパイシーな香りがした。

 これを提供するのは、5月下旬。
 初夏を思わせるには、きっとこの香り。

 小麦粉とバターと砂糖を合わせる。
 ローズマリーとバジルを練り込み、形成する。

 この香りの強い葉たちは焼き菓子(プティフール)にしようと思った。
 試作はビスキュイだ。

 レモンバームはミルクと合わせてジュレに。
 レモンの花はマカロン・パリジャン・オ・ショコラのアクセントに。
 旬のフルーツのプティ・タルトも添えよう。

 今まで悩んでいたことが嘘のように手が動く。
 頭の中には、笑い合う幾美家の未来の姿が――ご夫妻と、慧悟さんとそこに寄り添う彩寧さんが――いる。

 これが、私なりの幾美家への『愛情』だ。
< 62 / 179 >

この作品をシェア

pagetop