シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「いいんです、元よりお忙しい方だって私も分かってるので」

「でも希幸ちゃんの旅立ちよ! あんなに大好きな希幸ちゃんのスイーツ食べておいて、お見送りに来ないなんて!」

 彩寧さんはため息を零した。
 私は、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「いいんです、用事があるって奥様がおっしゃってましたから。じゃあ……」

「あ、待って!」

 彩寧さんが私にスマートフォンを掲げた。

「連絡取りましょうよ! あのバカ慧悟には、秘密にしておくから」

 *

 女同士の秘密。
 当時の私には胸が痛かったけれど、彩寧さんなりに色々と考えてくれていたんだろうと思う。

 今だから分かる、彼女の優しさ。
 そんな彩寧さんだから、慧悟さんと結ばれてほしいと思う。
 そんな彩寧さんだから、慧悟さんとの結婚を祝福したいと思う。

 懐かしい記憶を胸に、ノースエリアの高級住宅街の入口、門の前で車を停める。
 ここも、私にとっては苦い思い出の場所だ。

 すぐさま守衛さんがこちらに駆け寄ってくる。

「『Auberge Le Belvédère(オーベルジュ・レ・ベルべデール)』の前埜です。幾美様ご夫妻に、ドルチェの選定に――」

「伺っております。どうぞ」

 あっけなく門が開く。
 私は幾美家へと、車を走らせた。
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