シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 何とか踏ん張り、オーベルジュへと戻った。
 車から降りたら安心感からか、足取りがフラフラとしてしまう。

 気持ちを落ち着けるように、荷物を置くと早速厨房に戻る。
 けれど、そこに漂うディナーの匂いに私の胃は拒絶反応を起こした。

「前埜さん、お帰りなさい……大丈夫?」

 料理長が手を動かしながら、顔だけこちらに向ける。
 慌てて込み上げたものを飲み込んだ。

「大丈夫です! ドルチェ、全部通りました!」

 報告を兼ねて言うと「良かったね、頑張って」と一言。
 ディナー前の厨房は、戦場さながらだから仕方ない。

 私も本日のデセールに取り掛からなくては。
 そう思い、早速作業に入る。

 けれど、私の脳裏では、先程幾美家で言われた言葉が何度も繰り返されていた。

 私は、慧悟さんの婚約をお祝いするパーティーのドルチェを任されていたんだ。

 二人のウェディングケーキを作ると決めたのに。
 私はまだ、自分の胸に折り合いをつけられないほど、慧悟さんに焦がれているらしい。
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