シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~

12 レセプションパーティー

 その日、私は早朝から厨房にいた。
 いよいよ幾美家のパーティー当日である。 

 昼過ぎになると、充分な量のドルチェが焼き上がる。
 作り終えたドルチェはデリカバットに並べ、重ねて車に運んだ。
 仕上げや盛り付けは、会場で行うのだ。

 別に作ったのは、チョコレートのプレートと飴細工。
 プレートにはパイピングでカリグラフィを施した。
 繊細に、丁寧に。
 絞ったチョコレートでホワイトチョコレートのプレートに記したのは、『Congratulations to the future Mr. and Mrs Ikumi』の文字。
 慧悟さんと彩寧さんをお祝いする、私のけじめの『婚約おめでとうございます』だ。

 文字の下には、全てを包んでくれるような夕焼け色をスプレーする。
 その上に、優しい黄色と淡いピンクの花を模したシュクルリーを飾った。

 飾り付け用の飴細工は、白鳥のつがいを模した。
 生涯愛し遂げる、永遠の愛の象徴だ。

 私なりの、幾美家への愛の形。
 叶わない恋も、この作品たちに昇華させた。

 レセプションパーティーは夕方から。
 本日のデセールは料理長と料理人(キュイジニエ)に任せてある。

「料理長、オーナー、行ってきます!」

 新品のコックコートに袖を通した私は、二人に見送られて運転席に乗り込んだ。

「楽しんでね」

 と、料理長。

「後で私も行くから」

 と、オーナー。

 私はパーティー会場である、ベリが丘の高級ホテルに今から向かう。
< 69 / 179 >

この作品をシェア

pagetop