シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 設営を終え、うん、と一人頷く。

「希幸ちゃん!」

 突然聞こえた華やかな明るい声に、振り向いた。
 綾音さんがいた。
 きらびやかな、それでいて上品なローズレッドのドレスを召している。
 彼女はAラインに広がるそのドレスの裾を、左右にふわふわさせながらこちらに歩いてくる。

「とっても素敵ね。このドルチェのテーブルだけ、大きなケーキになったみたい」

 そう言って微笑む彩寧さんは、嫌味一つなくうふふと笑う。
 本当に嬉しそうだ。
 会場内を見回すと、すでに幾美家のご夫婦もいらしていた。
 もうすぐ、開場の時間らしい。

「ありがとうございます!」

 ペコリと頭を下げ笑顔を返す。
 けれど、彩寧さんははぁ、とため息をもらした。

「慧悟ったらね、このパーティーにも遅れるっていうのよ。もう本当、嫌になっちゃう」

「お忙しいんですね」

「ねえ、本当に。だから、会ったら言ってやるのよ。希幸ちゃんのドルチェ、飾り付けが一番綺麗な時に見られなくて、残念でしたって」

 彩寧さんは口を尖らせる。私はあはは、と苦笑いを返した。
 彩寧さんは誰かに呼ばれて、すぐに「また後で」と行ってしまった。

 慧悟さんと彩寧さんは、おそらくこのパーティーの主役だ。だから、きっと忙しいだろう。
 そんなお二人には、特別を作ってある。

 テーブルの裏に、補充用のドルチェと共に慧悟さんと彩寧さんへのプレートを隠していた。
 ウェディングケーキの予行演習も兼ねて作り上げた、『ご婚約おめでとうございます』ワンプレートだ。
 これは、慧悟さんと彩寧さんに、直接渡したいと思う。
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