シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「素朴なのにとても口当たりが良いの。これ、何の味かしら?」

 不意に、声をかけられた。

「ローズマリーとバジルを使用しております。香りだけでなく、見た目も楽しんでいただこうと――」

 目の前にいたのは、ドレス姿のどこかの淑女。 
 説明をしながら、私が彼女に向ける笑みは『パティシエール』の仮面だ。
  
 これでいい。
 これでいいんだ。

 自分を納得させるように、私はオーベルジュから来たことを告げた。

「あら、あそこって会員制だから私はまだ入ったこともないのよね。いつかあそこで、私も結納を行えたら……なんてね」

 目の前の淑女は、遠くにいた慧悟さんをちらりと見る。
 それから頬をほんのり染めて、すぐに「ごきげんよう」と行ってしまった。

 Auberge Le Belvédère(オーベルジュ・レ・ベルべデール)は慧悟さんと彩寧さんの結納をした場所でもある。
 それも相まって、オーベルジュはベリが丘の〝乙女たちの〟憧れの場所になっているらしい。

 その事実が、余計に私の胸を抉っていった。
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