シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
宿ってしまった命

14 叶わぬ願い

 幾美家本家のお屋敷の、応接室が見えた。

 初夏の優しい光の中で、慧悟さんが笑っている。
 彼の腕の中にいるのは、まだ生まれたばかりの赤ちゃん。
 真っ白いベビードレスに身を包んだ天使は、すやすやと寝息を立てている。

「可愛いだろう、希幸」

 ふわりと優しく微笑まれ、私の頬が緩む。

「はい、とっても」

 言いながら、白い天使に手を伸ばす。
 その頬に、そっと触れようと――

「ほんっとうに可愛いわ。だって、私たちの子だもの」

 横から伸びてきた手が、天使を抱き上げた。
 ローズレッドのドレスの腕の中、白色の天使が微笑んだ。

 突然、私だけ切り離され黒い世界に放り込まれた。

 幸せな家族は、明るい向こう側で笑っている。

 こちら側の私は、どんなに手を伸ばしても触れることも許されない。

「希幸ちゃんのケーキのおかげね」

「ああ、そうだね」

 見つめあい、笑い合う慧悟さんと彩寧さん。
 私の名は呼ばれても、そこに私の入る余地はない。

 きゃっきゃっと笑う、天使の声。

 温かな日差しは、私の方までは届かない。
 真っ暗な闇が、私を支配していく。

 こんなの、嫌。
 けれど、これで良かった。
 涙をこらえ、笑顔を浮かべる。
 けれど、涙が溢れてくる。

 やっぱり、嫌――
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