シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「んん……」

 ぼんやりと意識が覚醒した。
 頭の上で、何かの無機質な機械音がする。
 身体が重い。

 ゆっくりと目を開いた。
 真っ白な天井が目に入る。
 それから、私の腕に繋がれているらしい点滴台も。

 窓から入り込む柔らかな日は、おそらく朝日。
 ということは、私はパーティーの後、ここに運ばれた。
 廊下で倒れかけてからの記憶はないが、おそらくそういうことだろう。

 にしても、あんな夢を見るなんて。
 見ていた夢の内容を思い出し、勝手に溜息がこぼれた。
 まだ諦めきれない自分の卑しさが強調されるようで、情けなくなる。

 顔を伏せると、そこにある重みが微かに動いた。
 よく聞けば、機械音の間に、すー、すー、と寝息のような音が聞こえる。

「……っ!」

 突如、目に入った人物に、思わず身体がピクリと反応した。
 同時に、右手をきゅっと何かに握られる。
 どうやら、彼が握っていたらしい。

 起きないで! と願ったからなのか、彼はまた穏やかな寝息を立て始める。

 彼は丸椅子に腰掛け、頭だけをベッドの上に垂れていた。
 怜悧な顔に、長いまつげが揺れている。
 柔らかな寝顔には、疲労の色が浮かんでいた。

 ――慧悟さん。

 そこにいるはずのない、けれどなぜかいる愛しい人の名前を胸の中で呼ぶ。

 なぜ彼がここにいるのかは分からないけれど、今だけは彼と二人きりであるという独占欲を感じていたい。
 これが許される想いでないのなら、なおさら。
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